現代の企業において、より流動的で高度なビジネス環境に対応するためには「自律型人材」が不可欠といわれています。では、自律型人材の定義や、そのような人材が求められる理由、また育成のポイントはどのようなものでしょうか。

本記事では、その疑問に答えながら、自律型人材が企業にもたらす多くのメリットや、成功事例を通してその重要性を明らかにしていきます。

■社員の自律学習を促進するしかけが満載のeラーニング受け放題サービス
「まなびプレミアム」について詳しく見る

無料eBook「人材育成大百科」

無料eBook「人材育成大百科」

人材育成の基本から、計画の立て方、効果的な教育手法、そして学習管理システム(LMS)の最新活用法までをコンパクトに解説。人材育成に関する悩みや課題を解決するための完全ガイドです。

「自律型人材」とは?

まずは自律型人材について正しく理解しておきましょう。ここでは、自律型人材の定義、注目される理由、そして活躍しやすい組織について解説します。

自律型人材の定義

一般的に自律型人材とは、自律、つまり自分自身の意志と原則に基づいて行動する能力を持ち、自ら判断して主体的に行動する人のことです。

明確な定義は存在しないものの、自分自身で規範や目標を設定し、それに沿って行動できる能力、そして、組織や業務の状況を把握して適切に行動するセルフマネジメント能力を備えている人のことを指します。

また、自分の判断で行動する以上、責任感を持っていることも特長として挙げられます。

自律型人材が注目される理由

自律型人材が現代のビジネス界で特に注目される理由はいくつかあります。

第一に、近年のビジネス環境はVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)と呼ばれ、変化が激しく将来予測が難しいことが特徴として挙げられます。このような環境下で企業が生き残るには、変化に臨機応変に対応できる自律型人材が必要です。

第二に、将来の産業構造転換に向けた人材育成の指針として経済産業省が2022年に公表した「未来人材ビジョン」によると、問題発見力や革新性など、自律型人材が有する資質が将来的により求められると予測されていることです。

「未来人材ビジョン」では、次世代のビジネスパーソンは、基礎的な能力や専門知識のみならず、時代の変化を見据えて能力やスキルを絶えず更新し続けなければ構造転換のスピードに適応できない、という見方も記載されています。

参考:
経済産業省「未来人材ビジョン」(閲覧日:2023年9月20日)

自律型人材が活躍しやすい組織

自律型人材の能力を十分に生かすためには、その人材がより活躍しやすい組織へと変化することが求められます。

自律型人材が最も活躍しやすいのは、オープンで柔軟な文化がある組織です。具体的には、以下の二つが挙げられます。これらの組織は「自律型組織」とも呼ばれます。

・ティール組織
・ホラクラシー組織

ティール組織

ティール組織とは、権力が集中している役職者やリーダーが存在せず、メンバーの関係が

フラットな組織のことです。従業員が自らの考えをもって新しい取り組みや改善案を提案することができ、その案をもとに自由な意思決定ができる環境が整っていることが特徴です。

フレデリック・ラルー氏による著作「Reinventing Organizations」で詳細に説明されており、自主性、目的、そして進化的な意識を三つの主要な柱としています。

ティール組織では、階層的な権力構造が最小限に抑えられ、従業員が各々の専門性と興味に基づいて業務を選びます。リーダーシップは流動的であり、プロジェクトや課題に応じて変わることが一般的です。このような環境により、従業員は自らの力で組織の目標やビジョンに貢献しやすくなるのです。

この種の組織形態は、自律型人材にとって非常に魅力的な働き方を提供します。

自律型人材は自らの価値観や目標に基づいて行動できるため、このような環境下であればより高度なセルフマネジメントと創造性を発揮できるのです。

ホラクラシー組織

ホラクラシー組織とは、階層型組織のように肩書や職種、上下関係によってではなく、メンバーそれぞれの役割によって組織が構成される組織です。

従業員一人一人がある程度の自由と責任を持ち、組織の目標達成に貢献するために自分から行動する文化があります。この組織形態は、よりフラットかつ柔軟で素早い運営が可能で、従業員が各々の役割において明確な「責務」と「権限」を有するのが特徴です。

ホラクラシー組織においては、「サークル」と呼ばれる単位で仕事が行われます。各サークルは特定の目的に集中し、その目的の達成のために必要な意思決定はサークル内で行われます。

また、ホラクラシー組織では、従業員が主体的に情報を共有して決定を下す文化があります。

このような組織文化は、自律型人材が自らのスキルと情熱を最大限に生かす場を提供します。自主性が高く、複雑な課題解決に長けた自律型人材にとって、ホラクラシー型組織は理想的な環境といえるでしょう。

高い柔軟性を持つ点や階層型の組織形態を避けるという点はティール組織と共通していますが、明確な役割が存在するという点で違いがあります。

自律型人材を育成するメリット

ティール組織やホラクラシー組織はもちろん、多くの組織では自律型人材の育成が非常に重視されています。このセクションでは、自律型人材の育成が組織にどのようなメリットをもたらすのかについて具体的に解説します。

生産性が向上する

自律型人材が多い組織は、業務が効率的に進むことによる高い生産性が期待できます。自律型人材は自発的に物事を考え行動する傾向があります。そのため、業務の改善案や新たな施策案が創出されやすくなります

提案、検討、意思決定が速やかに行われることで、組織全体の生産性が向上しやすくなるのです。

特にティール組織のように従業員が自らの専門性や興味に基づいて業務を選べる環境では、自律型人材による提案がより迅速に実行へと移されていきます。指示を待つ必要がなく従業員それぞれが自分で判断して業務に取り組める環境は、業務効率化をより加速させるでしょう。

ホラクラシー型組織では、この効率性は各々の明確な「責務」と「権限」によって強化されます。

各社員が個々に業務効率化と改善を果たせば、それが組織全体の生産性向上に直結するのです。自分の意見やアイデアが形になる過程を経て、従業員のモチベーションやエンゲージメントも自然と高まるでしょう。

マネジメントの負担が軽くなる

自律型人材の増加は、管理職のマネジメント負担を軽減することにもつながります。

管理職は自分の主要な業務に加えて、部下や後輩のマネジメントにも多くの時間と労力を割かざるを得ません。しかし、自律型人材が多い組織では、各員が自ら適切な判断に基づいた行動をとることで、管理職による細かな指示やフォローアップが不要です。

メンバーの管理にかかっていた時間と労力をより重要なコア業務に集中することができれば、それ自体が組織の生産性向上に寄与します。

多様な働き方への対応が可能になる

働き方改革やテクノロジーの進展によって、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方が普及しています。

このような環境下では、従来のような上下関係に基づいた密なマネジメントは困難です。特に、管理職やリーダーの目が行き届かない状況では、業務遅延や不正、ミスのリスクが高まります。

しかし、自律型人材が多い組織では、従業員自身が責任感と主体性を持ち、規範や業務目標をしっかりと守ります。そのため、多様な働き方であっても業務が円滑に進む可能性が高いのです。

■社員の自律学習を促進するしかけが満載のeラーニング受け放題サービス
「まなびプレミアム」について詳しく見る

自律型人材育成のデメリット

自律型人材を育成する上で、いくつか注意すべきデメリットがあります。懸念点を事前に把握した上で、自社へどう取り入れていくべきかを考えてみると良いでしょう。

育成にある程度の時間がかかる

まず、1つ目は、自律型人材を成長させるためには一定期間の時間が必要になる点です。

新しいスキルや考え方を養う過程は、短期間で習得することは難しく、長期的な取り組みが求められます。したがって、即効性を求めるのではなく、継続的な教育とフォローアップが重要になるでしょう。

育成に手間とコストがかかる

2つ目の注意点として挙げられるのは、この育成プロセスには多くの手間とコストが伴うことです。

自律型人材育成の受け皿となる育成部門の充実と予算配分まで考慮する必要があるでしょう。社内制度を見直すだけでなく、自律学習のためのプラットフォームや外部研修も考慮に入れる必要があります。

これらの施策に投資することは、短期的には負担に感じられるかもしれません。しかし、中長期で見れば投資として大きなリターンが期待できるため、計画的に資源を配分する必要があります。

業務の進捗管理の難度が高まる可能性がある

3つ目の注意点は、各社員が持つ裁量権が拡大することで、情報の共有や業務の進捗が見えにくくなる場合があるという点です。

自律型人材が多くなると、各個人が独自の判断で行動するケースが増えるため、全体としての方向性を保つのが難しくなる場合があります。そのため、情報共有の仕組みをしっかりと構築し、進捗状況をリアルタイムで確認できるようなシステムが必要となるでしょう。

企業内でのコミュニケーションを活性化させるための情報通信環境への投資も検討すべき項目となってきます。

管理職の能力向上が求められる

4つ目の注意点として考慮すべきは、管理職のスキルアップが不可欠であるということです。

自律型人材は、高度な判断力や問題解決能力を有していることが多いため、管理職もそれに応じたコーチング能力が必要です。特に、社員が新しいことに挑戦して失敗したときにどうサポートするかは重要なポイントとなります。

事前に企業として自律型人材を育成する方針を共有し、管理職の教育を進めておくことが自律型人材育成の成功につながるといえるでしょう。

自律型人材を育成するための4つのポイント

これまで説明してきたように自律型人材の有用性は明白ですが、どのように育成すれば良いのでしょうか。

ここでは4つのポイントについて説明します。

自社の求める自律型人材を定義する

まずは、自社が求める自律型人材の定義を明確にすることが重要です。

具体的には、企業が達成したいビジョンや目標に沿った「やってもらいたいこと」を明確にし、その基準に沿った人材像を設定する必要があります。

もし社内にモデルケースとなるような人材がいるのであれば、その人物のスキルや行動パターンを参考にするのも効果的です。

1on1ミーティングを実施する

定義した自律型人材の像に基づき、各社員に対して行動目標を設定します。

ただし、目標設定だけで終わらせずに、定期的に1on1ミーティングを実施して進捗を確認し、その行動や判断が目標に対して適切であったかどうかを振り返りましょう。ミーティングの結果に応じて目標や行動プランを見直し、社員一人ひとりのスキルと意識をブラッシュアップしていきます。

eラーニングや研修で自律学習を支援する

自社が目指す自律型人材のロールモデルを全社員に明示した上で、自律学習を進められる研修プログラムを提供します。

研修の内容やノウハウが不足している場合は、外部から専門の研修プログラムを導入するのもよいでしょう。また、社員が自分のペースでスキルを向上できるように、eラーニングの導入や学習費用の支援を行うことも有効です。

自身のスキルアップに意欲的な自律型人材が自らカリキュラムを選択できるよう、受け放題型の学習サービスを利用することも効果的でしょう。

■社員の自律学習を促進するしかけが満載のeラーニング受け放題サービス
「まなびプレミアム」について詳しく見る

自発的に行動しやすい環境を整える

自律型人材を育成するためには、社員が自発的に行動しやすい環境の整備が欠かせません。社風や制度が自主性を阻害するような状況では、どれだけ優れた人材がいてもその能力は発揮されにくいでしょう。

具体的には、社員が自由にアイデアを提案できる文化を醸成することや、失敗を許容しフォローできる体制を整えることが求められます。

また、人事評価制度に関しても改善していく必要があります。挑戦した過程が評価されるよう制度を見直すことで、社員が新しいことに挑戦する意欲を喚起しやすくなります。

さらに、社内でのプロジェクトに自由に参加できるような裁量権を与える、社内公募制度を導入するなどの制度改革も効果的です。

自律型人材育成を実践している企業の事例

自律型人材を積極的に育成している企業は日本国内外で数多くあります。その中でも特筆すべき3社の事例を取り上げ、どのような施策や制度が実施されているのか解説します。

■社員の自律学習を促進するしかけが満載のeラーニング受け放題サービス
「まなびプレミアム」について詳しく見る

株式会社JTB

株式会社JTBでは、「自律創造型社員」の育成を推進しています。社内の人材育成プラットフォーム「JTBユニバーシティ」では、集合研修やウェビナー、eラーニングなど年に800本以上の教育プログラムを用意し、従業員に学習機会を提供しています。また、海外への派遣研修への参加支援や、資格取得の費用補助なども行っています。

2019年には従業員一人ひとりに適した学習教材を提供するLMSを導入し、2021年からは全社で従業員のキャリアプランに合った教育の機会を提供するようになりました。他にも、キャリア研修や面談の場を設けて対話の機会を作ることで、自分自身のキャリアプランを考える機会や情報の提供を行っています。

さらに詳しく:〔株式会社JTB〕「社員を育てる」から「自ら育つ社員」へ。社員の行動変容を促す人財育成をLMSで実現する(弊社コーポレートサイトへ遷移します)

株式会社リコー

株式会社リコーは、人材開発において「自律的な成長」を基本方針としており、その実現のために多様な施策を展開しています。

その一つとして、「プロフェッショナル認定制度」を設けています。これは社員が自分で成長の過程と目標を設定し、それを達成するために何をすべきかを自分で決定する制度です。

このような自主性を尊重する文化が、社員がより積極的に新しい挑戦を行う土壌を作り出しています。

この他にも、「RJ AWARD」や「Buddyコンテスト」といった社内表彰制度が整備されています。これらの制度は、自律的に行動し優れた結果を上げた社員を表彰するものです。

その成果を全社で共有することで、目標とする自律型人材像を明確にし、社員全体のモチベーションを高める効果が生まれます。このような多角的かつ総合的な人材開発の取り組みにより、リコーは自律型人材の育成に成功しています。

株式会社カインズ

株式会社カインズは、人材育成において「自らのキャリアは自らで創る」こと、「DIY HR®」という基本コンセプトを掲げています。このコンセプトを具現化するために、5つの人事戦略を策定し、それを基に多くの制度やプログラムを設計しています。

特筆すべきは、同社が提供する社内公募型の人事異動制度である「社内公募制度」や「社内インターン制度」です。

これらにより、社員は140種以上もの職種から自分が望むキャリアパスを選ぶことができます。たとえば、現在は販売部門に所属しているが、将来は企画やマーケティングに関わりたいという社員も、この制度を通じて自身のキャリアを築いていくことができるのです。

また、自主学習を促進するために「CAINZアカデミア」を設立しています。

「CAINZアカデミア」は、オンラインコースから専門の講座まで、幅広い学習内容を提供するプラットフォームです。「カインズ白熱教室」という、各界の著名人を講師に招いて行われるセミナーも大変好評で、社員の学びたいという意欲を一層高めています。

このような施策によって、カインズでは社員が自分自身でキャリアをデザインし、その過程で多くを学び成長する文化が根付いています。その結果、高い自律性と多様なスキルを持つ人材が多数育成されているのです。

参考:
株式会社リコー「人材開発」(閲覧日:2023年9月20日)
株式会社カインズ「キャリア体系」、「教育体系」(閲覧日:2023年9月20日)

自律型人材を育てることで企業成長の促進が可能

労働力不足が深刻化する現代において、自律型人材の重要性は日増しに高まっています。自律型人材は、自ら考え行動する能力が高く、困難な状況においても解決策を見つけ出す力があります。このような人材が多い企業は、変化に柔軟に対応でき、成長する可能性が高まるでしょう。

環境整備や学習支援が、自律型人材を効率よく育成するために不可欠な要素といえます。株式会社リコーと株式会社カインズのような先進企業が行っているように、目的別の教育プログラムや社内公募制度、さらには自主学習支援プラットフォームの設置など、多角的かつ総合的なアプローチが求められます。

このような取り組みは、一見手間とコストがかかるように思えるかもしれません。しかし、それは必要な投資であり、中長期的には企業の成長、そして社員の満足度や生産性の向上につながります。経営者や人事担当者には、自律型人材育成の重要性を理解し、そのための環境を整えることが、持続可能な企業成長を可能にすることを強く意識することが求められています。