eラーニングはスマホやタブレットで実施可能!PC学習との効果の違いを事例を通して比較
「パソコンでしかeラーニングを受講できないのは不便」受講者の方からこんな声をいただいたことはありませんか?
そこで人事部や研修管理部門の方が気になるのは、スマホやタブレットでも十分な学習効果が得られるのかどうかという点でしょう。PCと比べ、画面サイズなどの制約があるため、あまり効果が見込めないのではないかと思われるのではないでしょうか?
そこで本稿では、スマホでeラーニングを受講する際のメリットとデメリットについて解説します。また、筆者がかつて当社のお客様の事例について調査を行い、学会発表した内容を元に、PCとスマホやタブレットの学習効果についても比較検討しています[1]。
ぜひモバイル端末の利用検討にお役立てください。
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目次
eラーニング スマホ受講の状況
日本ではすっかり定着したスマートフォン(スマホ)やタブレット。総務省の調査によると、個人のスマートフォンの保有割合は増加傾向にあり、2022年には80%に迫る割合となっています。
一方、企業内eラーニングのスマホ・タブレットの利用率はというと、当社のお客様に限れば、ここ2年は15%前後を推移するのみで大きな動きはありません。その理由として、そもそも業務で個人のスマートフォンやタブレットの使用を禁じていたり、業務においてはPCの方が使い勝手がよいのでPCを使うという方が多かったりするからではないかと考えられます。
ただし、総務省が2018年に実施した調査によると、企業におけるスマートフォン・タブレットの導入率はそれぞれ56.5%と51.0%でした[3]。スマホの普及率を鑑みても、モバイル端末によるeラーニングの利用は、今後さらに増加していくものと考えられます。
また、eラーニングの場合は、テーマにもよりますが個人のモバイル端末の利用をあえて禁止しない例も見られるようになってきました。
個人の受講に限れば、スマホでのeラーニング受講はもはや当たり前になっています。今後は企業側も、モバイル端末でのeラーニング受講を前提とした環境を用意する必要があるのではないでしょうか。
eラーニングをスマホで受講可能にするメリット
実際にスマホでeラーニングを受講可能にした場合、どのようなメリット・デメリットが考えられるのでしょうか。具体的に見てみましょう。
すきま時間を使って学習できる
eラーニングの学習デバイスとしてスマホを活用することで、すきま時間での学習が可能になります。ちょっとした空き時間や移動時間に学習を進められるため、忙しい社員も、時間を有効活用することができるようになります。
場所を選ばず学習することができる
スマホでのeラーニング受講は、自宅や電車の中など、場所を問わないこともメリットの一つです。
PCがあり、なおかつeラーニングのシステムにアクセスできる環境でなければ受講できないという制約にとらわれず、スマホさえあればどこでも学習できるようになります。
PCよりも気軽に学習できる
PCを立ち上げてeラーニングを行うよりも、スマホから受講するほうが物理的・心理的ハードルが低いと感じる人は多いのではないでしょうか。
「PCで受講した内容を見直したい」「明日の仕事で役立ちそうな内容を予習しておきたい」といった時には、スマホがあると便利です。状況に合わせてPC、スマホ、タブレット端末を使い分けられれば、さらに理想的だといえるでしょう。
リスキリングの支援ができる
スマホからeラーニングを受講できる環境は、スキルアップを目指す社員にも魅力的です。スマホで受講できる環境に加えて学び放題のeラーニングサービスなどを導入すれば、社員のエンゲージメント向上や自律型人材の育成に役立てることができます。
eラーニングをスマホで受講可能にするデメリット
セキュリティ対策が必要となる
個人のスマホでeラーニングを受講する場合、セキュリティ対策が必須となります。eラーニングのページから、個人情報や会社の情報を見られる可能性があるからです。
個人のスマホで受講を許可する場合、併せてセキュリティ対策に関する教育・施策を行う必要があるでしょう。
画面が小さく、学習効率が下がる可能性がある
スマホやタブレットで受講する場合、PCに比べ画面が小さいことがほとんどです。教材によっては内容が見づらく、学習効率が下がることも考えられます。
導入するeラーニング教材がスマホやタブレットに対応しているのか、どのような見え方をするのかといった点について、あらかじめ確認しておきましょう。
モチベーション維持の工夫が必要となる
スマホでのeラーニング受講は手軽な反面、集中力が途切れやすかったり、つい後回しにしてしまったりと、モチベーション維持が難しい側面があります。
こうしたデメリットを解消するには、数分程度で受講できるマイクロラーニングを活用したり、ゲーム性をもたせたりといった工夫が必要です。
eラーニングをスマホで受講する方法
スマホ対応のeラーニング教材・eラーニングシステムを導入する
スマホでeラーニングを行うには、スマートフォンにも対応したeラーニング教材・システムを導入する必要があります。
マルチデバイス対応のeラーニングシステムなら、スマホの他、パソコンやタブレットなど都合のよい端末で学習することが可能になります。
マルチデバイス対応の場合も、機種やバージョン、使用するブラウザによっては利用できない場合もあります。自社の社員が問題なく受講できるかどうか、動作環境については必ず事前に確認を行いましょう。
ライトワークスのeラーニング受け放題サービス「まなびプレミアム」や、LMS「CAREERSHIP®」でもマルチデバイスへの対応を実装しています。
eラーニングをスマホで実施した導入事例
株式会社ローソン様
ローソン様では、全社規模でeラーニングを導入されています。入社から幹部育成まで、「必要な人」が「必要なとき」に「必要な内容」を学べるように、というコンセプトの下、市販(当社製)の教材と自社オリジナル教材を組み合わせた約90タイトルをさまざまな形で運用されています。
新入社員研修にモバイルラーニング(スマホやタブレットでの学習)を導入
2011年度から、そのうちの一つである新入社員研修にモバイルラーニングを取り入れました。背景にあったのは、研修効率に関する課題です。
ローソン様の新入社員研修には、大きく「知識研修」と「店舗研修」の2種類があり、前者の「知識研修」では従来からPCラーニングを活用していました。その手法自体は課題ではありません。問題は実施時期の調整でした。
「知識研修」はPCラーニングと集合研修で構成されていましたが、基本的にいずれも自宅か、社内または研修センターでの実施を前提としていました。PCラーニングを行う時間帯は個人に任されていましたが、会社か家にいる時間帯にしか実施できません。
「店舗研修」は、その名の通り店舗で行われます。
つまり、いずれの研修も「一定時間の身柄の拘束」を前提としていたのです。そのため、これらの研修は、実施期間が重ならないよう、別々の時期に調整して行われていました。しかし、この形だと新入社員研修の期間が長引きます。研修期間が長引くとその分コストがかかりますし、配属も遅れ、会社全体のリソース調整に影響が生じます。
そこで、研修効率をあげるため、PCラーニングをモバイルラーニングに変え、知識研修と店舗研修を並行して実施できるようにしたのです。
研修効果の比較
上記の施策を実施した後、実施状況を評価するため、過去の新入社員研修の履歴データとの比較を行ってみました。
具体的には、以下のような内容です。
・対象教材:6タイトル(PCラーニング版とモバイルラーニング版)
・過去の履歴抽出対象:入社3~5年目のPCラーニング修了者437名
・新施策の履歴抽出対象:新入社員のモバイルラーニング修了者123名
なお、対象教材である6タイトルは、学習内容は同一ですが、技術的な仕様が異なっています。PCラーニングには従来提供していたFlashで動作する教材、モバイルラーニングには新たに用意したHTML5ベースの教材が使用されています。
モバイルラーニングがPCラーニングを上回る結果に
上記の比較調査の結果、モバイルラーニングの方が修了テストで0.86点、学習時間で33分、ログイン回数で11.2回、それぞれPCラーニングを上回ったことが分かりました。点数については微差ですが、学習時間とログイン回数は明らかに有意に上回っています。
また、モバイルラーニング修了者へのアンケートからは、移動中の電車の中や店舗、外出先など、PCラーニングでは実現できない学習方法が全体の40%に達していることも判明しました。
会社で実施したと思われる「勤務時間後」「勤務の休憩時間」が10%にも満たないことも印象的です。モバイルラーニングには、スマホやタブレットに慣れた若い世代ほどなじみやすいのかもしれませんが、時間や場所に関する制約をなくす、つまり学習環境に関する自由度を上げるとそれぞれの好みや事情に応じて最適な選択がなされること、また、得られる効果はPCラーニングと同等であるということが分かりました。
ローソン様のこちらの事例は、モバイルラーニングの導入により、新入社員の育成のスピードを加速しつつコストを下げることに成功した例と言えます。さらに学習効果が落ちないとなれば、真に効率的な学習方法といえるでしょう。
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株式会社栄光様(栄光ゼミナール)
栄光様では、2011年2月にPCラーニングとモバイルラーニングを導入されました。目的は、学生講師の育成を効率化することです。
栄光ゼミナールの人気と信頼は、講師陣の確かな指導力によって支えられています。その指導力を育てるために、教室に配属される前の初期研修だけで4週間をかけて12時間の集合研修を実施していました。ところが、このやり方では学ぶ側・教える側ともに負担が大きく、コストもかかるため、改善が求められていたのです。
知識習得の研修をeラーニング化
そこで、指導システム、コンプライアンス、基礎知識など、知識系の科目の学習にeラーニングを導入することとなりました。当初はパソコンの利用を前提に、Windows OSでの受講だけを可とし、ネットワーク環境の問題で受講できない講師のためにDVDを配布していましたが、受講者からの要望を受け、追ってモバイルラーニングの環境を構築しました。
スマホやタブレットが使えれば、学校の授業やサークル活動、就職活動に忙しい学生でも、時間や場所に縛られずに学ぶことができます。学生のライフスタイルを考慮すれば、モバイルラーニングはまさに理想的です。
モバイルラーニング導入後の効果
この結果、集合研修の4分の1がモバイルラーニングに切り替わり、早ければ3週間で教室へ配属できるようになりました。
また、集合研修の教壇に立つ回数が減ったため、トレーナーのコストが25%削減されました。
では、肝心の学習効果はどうだったのでしょう。学習内容が同一の6教材について、PCラーニング修了者4,307名と、モバイルラーニング修了者2,205名を対象に、ローソン様と同様の項目を比較しました。結果は以下の通りです。
ローソン様の場合と同様に、モバイルラーニング修了者の方が、修了テストで0.38点、学習時間で12分、ログイン回数で0.25回、それぞれ上昇する結果となりました。これにより、栄光様の事例でも、モバイルラーニングはPCラーニングと同等の学習効果が得られる、ということが確認できたことになります。
新人講師のスキルも向上傾向
一方で、栄光ゼミナールではこの施策を開始して以降、新人講師のスキルが上がっているとの声が各教室から届くようになったそうです。これは、集合研修のコマ数が減ったことで、一コマの集合研修に対する集中力がアップしたことによるとみられています。
栄光様の事例は、ルールや基礎知識はeラーニングで、指導法のようなヒューマンスキルは対面の集合研修でと、目的に応じて教育手法を使い分けたこと、さらに受講者のライフスタイルを考慮してeラーニングのパートにモバイルラーニングを導入したことが、初期研修の効率化に成功したポイントといえるでしょう。
eラーニング大百科
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まとめ
eラーニングをスマホ、タブレットなどのモバイル端末で受講する際のメリット・デメリットをご紹介しました。
また、モバイルラーニングの導入事例についても2つご紹介しました。いずれの事例でも、モバイルラーニングの学習効果はPCラーニングと同等であることが示されました。
PCラーニングで同等の学習効果が得られることを前提にモバイルラーニングを活用することができれば、より柔軟で効率的な教育サービスの展開につながるでしょう。受講者のライフスタイルを考慮することで、受講率の向上も期待できます。
一方で、このような学習の仕方を想定すると、今後は教材の側にも「合間でちょこちょこ学習できる仕組み」「どんなデバイスでアクセスしても崩れないレイアウト」などの工夫が必要になってくると思われます。
実際に、最近はモバイル端末の利用を前提とした「マイクロラーニング」という教育手法が注目を集めています。「マイクロラーニング」は小さく区切られたコンテンツを短時間で学習するという教育手法で、米国アトランタで開催された「ATD2017 Tech Knowledge」で話題を独占しました。
従来のeラーニング教材の学習時間は60~90分程度というのが一般的でしたが、「マイクロラーニング」の手法を取り入れ、学習時間を5~10分に押さえることで、反復学習や振り返りをしやすくし、学習内容の定着を図る効果が期待できます。
元より、eラーニングのメリットは「時間と場所を選ばない」「隙間時間を活用できる」「自分のペースで学習できる」ことです。モバイルラーニングはeラーニングのこれらのメリットをさらに追求していくことになるでしょう。
[1]小迫宏行「モバイル端末とPCによる学習効果の比較 -モバイルラーニング事例-」教育システム情報学会 2012年度第4回研究会にて発表
[2]総務省「令和4年通信利用動向調査の結果」<https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/230529_1.pdf>
[3]総務省「平成30年度 デジタル化による生活・働き方への 影響に関する調査研究 成果報告書」<https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/r01_02_houkoku.pdf>
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