社員研修を実施するうえで、受講者が積極的に参加してもらい、効率的に理解を深めてもらうことが重要です。そこで近年注目されているのが、VRVirtual Reality仮想現実)技術を用いた体験型の「VR研修」です。

本記事ではVR研修を導入するメリットポイント、またどのような企業向いているのかを解説します。研修内容にお悩みの人事担当者の方はぜひ参考にしてみてください。

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VR研修とは

VR研修Virtual Reality仮想現実)の技術を使い、リアル体験型の研修ができるものです。現在は専用のゴーグルを使用するか、映像を投影して視聴するかのいずれかのタイプがあります。

専用ゴーグルを着用したVR研修では、実際の作業者と同じ目線で業務内容を見ることができます。従来では実施できなかった内容が、実践に近い形で可能になり、研修内容に対する理解度が高くなるでしょう。また、体感型の研修は積極的な参加が期待できるため、導入を検討する企業も増えています。

VR研修の4つのメリット

VR研修を実施する4つのメリットをご紹介します。

  1. 時間や場所の制約がない
  2. 危険がともなうような訓練ができる
  3. コスト削減の効果がある
  4. モチベーションが上がる

時間や場所の制約がない

VR研修は仮想空間上で行う研修のため、ゴーグルなどの機材があれば自宅でも受けられます。そのため、従来は屋外や遠方に行かなければ実施できなかったような研修も仮想空間に再現することができます。

時間や場所の制約がなくなることで、これまで参加できなかった従業員の参加も期待できるでしょう。

危険がともなうような訓練ができる

高所暗所、重機などを扱う職場は一定のリスクを伴います。そのため、従来は映像や資料のみで学んでいた場合にも、VR研修を活用することで危険を回避しながら現場に近い環境を体験できます。実際に現場に入る前の訓練として有効でしょう。

コスト削減の効果がある

VR研修は導入時にゴーグルなどの機器コンテンツの作成初期費用がかかりますが、一度購入してしまえば繰り返し使うことができるため、長期的に見るとコストを抑えられるでしょう。

通常の研修であれば、会場費用、宿泊費や交通費などが発生するケースもあり、人数が増えるほどコストも増大します。機器メンテナンスやコンテンツの定期的なブラッシュアップなどは必要ですが、導入後の費用を抑えられるのが大きなメリットです。

モチベーションが上がる

VR研修は、実写CGを使って現実に近い擬似体験ができるため、座学などと比べて楽しみながら学べるのが特徴です。

株式会社マクロミルが発表した、以下の「VRに関する意識調査」によると、何らかの形でVRを体験した人は5人に1人おり、そのうちの85%の人が体験に対して満足だと回答しています。楽しく学習ができるため参加者のモチベーションも上がりやすく、能動的な研修参加が期待できます。

株式会社Mogura,Mogura VR News,VR体験の満足度は「85%」 マクロミルが意識調査を発表,https://www.moguravr.com/macromill-research-2019-02/(閲覧日:2024年4月9日)

VR研修導入にあたってのポイント・注意点

VR研修はどのような研修を実施するかによって、使用する機器や映像を選べます。しかし、VRの特性を知った上で導入しなければ、うまく活用できないことがあるので注意が必要です。導入にあたっては、以下の内容に気をつけましょう。

  • 使う機器によって特性がある
  • コンテンツは実写とCGの2つがある
  • VR酔いの可能性がある
  • VRに不向きな研修もある
  • 教育担当者のITリテラシーが必要

使う機器によって特性がある

VR機器は「ヘッドマウントディスプレイ」と呼ばれる、ゴーグルのような機器を装着するタイプと、パソコンやスクリーンに投影するタイプのものがあります。

それぞれの特徴をふまえた上で、予算や研修スタイルに応じて自社にあったものを検討しましょう。両者の特徴は以下の通りです。

機器特徴
ヘッドマウントディスプレイ没入感があり、実際に体を動かしながら体験できる
・人数が増えると機器も必要なので少人数個人向け
・人数分の台数を揃えるためのコストがかかる
投影タイプ・会議室の壁などに投影可能なため、集合研修などでの利用に向いている
・没入感はヘッドマウントディスプレイと比べると劣る
・1人1台ではないのでコストが抑えられる

コンテンツは実写とCGの2つがある

VR動画には実写型CG型があり、自由度の高さやコストが異なるため研修内容によってこれらを使い分けるのもひとつの方法です。たとえば、危険を伴う内容で、実際に体験するとどうなるかといったシチュエーションの場合、実写での制作は難しいためCGでの制作が向いているでしょう。

自社の業種や研修内容によって選択肢が変わってくるため、以下の特徴を参考にしてください。

コンテンツ特徴
実写型実際に撮影された写真や動画をもとにVR空間を作るため、現場の臨場感が味わえる
・空間のリアルな雰囲気を物理的な制約なく伝えられる
・危険を想定したシチュエーションなどは、サンプル画像がないと制作できない
CG型・さまざまシチュエーションに対応でき、自由度の高いVR研修がおこなえる
・ゲーム性があるため、楽しみながら研修できる
・実写型よりもコストや制作時間がかかる

VR酔いの可能性がある

VRの特徴として、視界は動いていても体は実際に動いていないことが挙げられます。そのため、感覚のズレによるVR酔いの症状が出る可能性を理解しておきましょう。乗り物酔いをしやすい人は注意が必要です。

研修の前に、以下の対策をするとよいでしょう。

  • 1本の動画の長さを短くする
  • どのような映像が流れるかを事前にスライドで見せる

教材制作の過程で数人に体験してもらい、フィードバックをしてもらうのも有効でしょう。

VRに不向きな研修もある

VRの教材制作は一定のコストがかかります。そのため、講義形式やロールプレイングで教えられるもの、再現性の高いものはVR研修にする必要がないといえます。

VR研修に向いているのは、基本動作を繰り返し体験して身につけることでミスを防ぐような研修、危険がともなうため簡単に再現できない研修や、想定した現場環境が作れない研修などです。VR研修にする必要があるかどうか、入念に検討してから実施しましょう。

教育担当者のITリテラシーが必要

VRを研修で活用するためには、教育担当者ITリテラシー知識や能力)が不可欠です。担当者の知識が足りていない場合、十分に機能を活用できず、研修の質が下がってしまう恐れがあります。

自社にあったVR研修を見極めるためにも、導入前に担当者自身が体験してみることも重要です。

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VR研修の導入事例

VR研修を実際の研修に導入している例をご紹介します。

事例①西日本旅客鉄道株式会社

西日本旅客鉄道株式会社では、「安全体感棟」の教材としてVRソリューションを導入しました。スマートフォンに専用アプリをダウンロードし、ヘッドマウントディスプレイを装着することで、人と列車との接触事故転落に至ってしまう様子VRで体験できます。

VRの導入によって、駅係員や乗務員だけでなく、車両・施設・電気に携わるスタッフが、労働災害が起こるまでの過程を見られるようになりました。労働災害発生のメカニズムヒューマンファクターリアルに伝えられる研修の場となっています。

事例②ANA

全日本空輸株式会社(ANA)では、機内での緊急事態を体感する訓練にVRを導入しました。火災急減圧などの現実では再現困難な緊急事態の様子をCGで再現しています。

VR研修を導入することで、客室乗務員が緊急事態においても適切な対応ができるようになり、業務手順の定着が高まる効果が見られています。

事例③東急建設株式会社

東急建設株式会社では、建設現場の災害事故撲滅を目指し、社員に対する安全教育をVRで実施しました。受講者はVR空間内で、建設現場における三大災害と呼ばれる「墜落・転落災害」「建設機械・クレーン等災害」「崩壊・倒壊災害」をリアルに体験することができます。

受講者からは、「想像以上に細かい安全確認作業必要だとわかった」「事故を起こした場面の映像は印象的で頭に残った」などの感想が寄せられています。

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まとめ

コロナ禍以降、企業の研修スタイルが見直される傾向にあり、体験型の学習ができるVR研修が注目されています。

労働災害など、これまでは再現が難しかったさまざまな状況での擬似体験を、場所や時間を問わず学習できることはVR研修の大きなメリットです。従来では実施できなかったような研修が可能になれば、従業員の満足度向上にもつながります。

その一方で、VR研修は習熟度の確認が難しい側面もあります。体験した後の振り返り学習を実施する、eラーニングと併せて内容の定着を図るなど、アウトプット効果測定を行う機会を設けましょう。