ハラスメントが企業に及ぼす影響は甚大です。2022年よりパワーハラスメントの防止措置義務が大企業だけでなく中小企業にも適用されたことから、研修を取り入れる企業も増えています。

しかし、ハラスメント研修ではどのようなことをすればよいかを具体的にイメージできていない研修担当者も多いでしょう。本記事では、ハラスメント研修について内容や目的、実施方法を解説します。効果的に実施するためのポイントについて知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

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ハラスメント研修とは

ハラスメント研修とは、職場におけるハラスメントについての防止策を学ぶ研修のことです。ハラスメントとは、相手を不快にしたり、苦痛に感じたりさせるような言動・行動を指します。

ハラスメント研修を実施することで、ハラスメントに対する従業員の理解促進や予防・対策の効果が期待できます。いじめや嫌がらせは被害者の心身に大きなストレス被害を与えるとともに、働いている従業員にも影響を与えるため、従業員へのハラスメント教育は欠かせないと言えるでしょう。

研修で対策すべきハラスメントの種類

ハラスメント研修の具体的な内容を説明する前に、職場で起こりやすいハラスメントの種類とその定義について解説します。主に以下の3つが挙げられます。

パワーハラスメント

パワーハラスメントとは、「①優越的な関係を背景とした言動であって② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③労働者の就業環境が害されるもの」であり、①から③までの3つの要素を全て満たすものを指します。

例えば、足蹴りをする、相手に物を投げつけるなど身体的な攻撃のほかに、人格を否定するような発言をする、発言を意図的に無視するといった精神的な攻撃も含まれます。

セクシュアルハラスメント

セクシュアルハラスメントとは、被害者の性自認や性別に関係なく、「性的な言動」により不利益を得たり、就業環境が害されたりすることです。

具体的には、性的な言動やデートへの執拗な誘い、必要なく身体へ接触することなどが挙げられます。

マタニティハラスメント

上司や同僚の言動により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業を取得した男女労働者の就業環境が害されることです。

ただし、業務の分担や安全面への配慮など、業務上必要であると客観的に思われる言動はハラスメントに該当しません

また、上記以外にも、リモートワークをしている従業員とそうでない従業員との間で起こる「リモートハラスメント」、人種にまつわる嫌がらせをする「レイシャルハラスメント」、性的指向や性自認を理由に差別的言動をする「SOGIハラスメント」などもあります。

ハラスメント研修をするべき理由

ハラスメント研修をするべき理由は大きく分けて2つあります。

従業員のリテラシー向上

実際にハラスメントが起こると、被害者やその家族に心身の負担をかけるだけでなく、従業員が安心安全に働けなくなり業務を通常どおりに進められなくなります。そのような事態を防ぐために全社的なリテラシー向上が求められます。

ハラスメントが実際に起きてからでは取り返しのつかないことも多く、継続的な研修によって従業員のハラスメントに対するリテラシーを上げ、ハラスメントの発生を未然に防ぐ必要があります。

ハラスメント防止措置の義務化への対応

パワーハラスメント防止に関する法律(改正労働施策総合推進法)が2022年より中小企業も施行の範囲になったことを受け、全ての企業においてハラスメントの防止措置が義務化されました。事業主に課せられる義務には「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」があり、次のように定義されています。

”職場におけるハラスメントの内容及び職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の事業主の方針等を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。”

出典)
厚生労働省「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001019259.pdf (閲覧日:2023年12月26日)

取り組みの例としては、ハラスメントの内容や生じた理由を社内報やパンフレットを用いて従業員に周知する、相談窓口を設ける、ハラスメントに対する事業主の方針を伝えるための研修や講習を行うなどが挙げられます。

そのため、仮にハラスメントの問題が顕在化していなくても、ハラスメントを起こさないための研修実施は必要だといえるでしょう。

「企業側に求められるハラスメント対策」についての詳細を知りたい方は、下記の記事でも解説していますので、ぜひご覧ください。

ハラスメント研修で伝えるべき内容

ハラスメント研修で伝えるべき内容について紹介します。また、研修で学んだ後には、職場環境を見直すことも大切です。

ハラスメントの定義・種類

研修にはハラスメントの定義やハラスメントの種類についての説明を入れましょう。「この場合はハラスメントと判断された」といった過去の判例や事例を用いて解説すると、参加者も理解しやすくなります。

例えば、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントの場合は客観的にハラスメントであると判断しやすい場合が多いですが、パワーハラスメントは指導との線引きが難しいため、事例紹介は有効と言えます。

ハラスメントが企業にあたえる影響

ハラスメントによって、企業に以下のような影響があたえられる可能性があります。

  • 従業員の生産性低下
  • 従業員のメンタルヘルスへの悪影響
  • 退職者増加や求職者の減少
  • クライアントからの契約解除
  • 企業イメージの低下

特に生産性低下や有能な人材の流出、契約解除などは企業の業績に関わる大きなマイナスとなります。ハラスメントによって大きな損害が発生するということを、従業員に認識してもらう必要があります。

また、管理職の場合にはハラスメントに関する法律の要件を学ぶ必要があるでしょう。法律の改正によるハラスメント対策や、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の内容をチェックし、ハラスメントの防止に努めましょう。

ハラスメントの予防や対処法の学習

ハラスメントを職場で起きないようにするための予防法や対処法についても研修の中に入れましょう。これらを学ぶことで、職場の安全が確保されます。

研修の中では、同僚に対する心遣いやマナーなどのコミュニケーションスキルを伸ばすのがポイントです。円滑にコミュニケーションを取れる環境を作り、万が一ハラスメントが起きた際は社内一丸となって再発防止に取り組むことが大切です。

ハラスメントに関する社内ルールの共有

既に社内でハラスメントに関する規定がある場合は、それらを共有します。ルール以外にもハラスメントが起きた際の相談先を共有しておきましょう。

従業員が適切な窓口を知っておくことで、ハラスメントの早期発見・認知につながり、企業としても迅速に対処できます。

ハラスメント研修の実施方法

ここではハラスメント研修の具体的な方法を解説します。

自社で集合研修を実施する

従業員を集めて研修を実施する方法です。普段の職場環境をよく知っている講師が自社に合った内容に調整できるうえに、コストを抑えられるメリットがあります。

また、参加者同士で意見を述べたり、フィードバックをもらったりすることで交流が生まれ、より研修内容への理解が深まることも期待されます。

研修サービス会社に依頼する

専門的な知識と経験をもった研修サービス会社に、研修を依頼する方法もあります。プロに依頼することで研修の質の担保や準備の手間を大幅に省くことができます。その反面、費用負担や、内容を自社用にカスタマイズするのが難しいという点は考慮しておきましょう。

eラーニングを導入する

研修にはeラーニングを導入する方法もあります。ネット環境さえあれば、パソコンやスマートフォンでも手軽に研修が受けられます。場所を問わず、繰り返し視聴することも可能なため、中途入社の従業員やリモートワークを行う従業員への対応も容易に行うことが可能です。

外部講習を受講する

外部で実施しているハラスメント講習を受ける方法もあります。専門的な内容を学べますが、日時の確保や参加者のスケジュール調整が必要になります。また、研修の内容が自社に合った内容とは限らないことも押さえておきましょう。

ハラスメント研修を成功させるポイント

ハラスメント研修を成功させる3つのポイントを整理しました。

自社の問題として捉えてもらう

ハラスメントは会社組織の課題であると捉えてもらう必要があります。ハラスメントをしてしまった加害者への対応は一次的な対処に過ぎず、根本的な解決には規則の変更やルールの追加などが必要となるケースがあるためです。

また、加害者の事情についても丁寧にヒアリングすることが重要です。組織や仕事内容に原因があり、やむを得ずハラスメントをしてしまったということも考えられるためです。ハラスメントは加害者ひとりの問題ではなく、職場環境により起こる可能性があることを理解しておきましょう。

ロールプレイングやケーススタディを取り入れる

ロールプレイングやケーススタディを取り入れるのも効果的です。実際に講師がパワーハラスメントする上司を演じたり、ときには自分自身が演じたりすることもあります。それを周りの受講者も見ることで、対応策や防止策について考えるきっかけになるでしょう。

繰り返し実施する

研修1回だけでは、ハラスメントに対する姿勢や意識は定着しません。そのため、繰り返し実施して従業員一人ひとりの意識を変容させることで、ハラスメントを起こさないような組織風土を醸成する必要があります。

研修後にはアンケートやeラーニングなどを用いた振り返りを行い、柔軟に研修内容を変更・実施することが大切です。

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まとめ

事業者のハラスメント防止措置が義務化された現在、ハラスメントを起こさないための社内教育は重要です。

ひとたび職場でハラスメントが起きれば、損害賠償のリスク企業のイメージダウンを招く恐れがあります。これらを未然に防ぐために、成功させるためのポイントを押さえて、適切な方法での研修実施が大切です。

従業員一人ひとりが深く理解するために、研修を繰り返し実施し、ハラスメントは企業全体の問題であるという組織風土を醸成していきましょう。